湯上  浩雄 写真安全安心な社会構築に応える
グローバル安全学リーダー育成を目指して。
(平成25年3月)

 

プログラムコーディネーター
東北大学 工学研究科
湯上 浩雄 教授

 

今求められているのはグローバルに活躍できるリーダー

 地球規模で発生した未曾有の災害である東日本大震災。観測史上最大の地震、広大な津波は、東北地域に甚大な被害を与えました。あれから2年が経過したものの、被災地域の社会基盤や産業基盤の本格回復にはまだ至っていないのが現状です。同時に、複合災害として原子力発電所の事故も発生し、原子力発電所の再稼動を含めたエネルギー政策の大転換も重要な課題となっています。   東日本大震災は、インフラやライフライン、サプライチェーンをはじめとする社会・産業・経済活動の不安定化が続く長期化災害となり、今は日本の将来を決めるターニングポイントに差し掛かっているといっても過言ではありません。この危機的状況を踏まえ、今、日本で求められているのは真のリーダーだと考えます。

 では、日本を担う新しいリーダーが持つべき資質とは何なのでしょうか?経済のグローバリゼーションや社会のインフォーマリゼーションなどが進む中、日本では、世界で活躍できるリーダーが育てられていないのが現状です。すなわち、広い視野と人間力を備え、産業界で即戦力となる博士人材が求められているのです。これまでの日本は、組織の中で他と調整し、調和することを重んじる風潮がみられました。しかし世の中の構造が徐々に変わり、それだけでは機能できない社会となってきています。それが明らかとなったのが、先の東日本大震災や東京電力福島第一原子力発電所での事故でした。将来のビジョンや方向性を示唆し、そこのたどり着くための道筋を示すリーダー。ますますグローバル化が進む中で、このようなリーダーは必要不可欠なのです。

将来のビジョンを据えてプログラムに取り組むために

 日本におけるこれまでの博士課程では、学生が研究室に割り当てられ、主に一人の指導教授の下で研究を進める方式がとられていました。そこには多くのメリットがありますが、教授の影響を大きく受け、興味の幅が狭くなることも懸念されています。今回のプロジェクトでは、文理融合型のさまざまな分野の教授とチームを組み、学生と教授が互いに影響を与い合える環境を創出しています。自分の専門分野以外の分野を積極的に学ぶことで、物事を俯瞰的に捉えることのできる、「俯瞰力」を有する学生を養成していきたいと考えています。

 本プロジェクトへの審査の前に、「セレクション・プログラム」を実施しています。このプログラムでは、本プログラムの核となる考え方、コンセプトを事前に認識してもらうことを目的としています。グローバルな人材とはどういう人材なのか。自分という人間がどういう人間で、5年後10年後はどうありたいのか。本プログラムを通して、将来のビジョンを明確に抽出し、グローバルに活躍する意図を確認してもらうことが狙いです。

「知る」「創る」「生きる」という3つの視点でカリキュラムを構成

 私たちが提唱するグローバル安全学とは、個々の専門領域で発展してきた「安全」に関する学問を、自然災害を中心としたリスクに対する防災・減災を柱として、空間的・時間的・社会的に、グローバルな視点で体系化する学問です。  本プログラムでは、科学や技術、人文社会学の学術領域に属する研究者が連携し、「安全安心を知る」「安全安心を創る」「安全安心に生きる」という3つの視点からプログラムを構築しています。安全な社会を作るには、この3つの視点がないと成立しません。何が起きたのか、なぜ起きるのか、それをどう防御するのか、どう動かして行けばいいのか。例えば新幹線の安全システムはどのように機能しているのでしょうか。新幹線は、地震波を事前に計測し、自動的に止まるシステムが組み込まれています。これは、地震のメカニズムを「知った」上で、運転を止める技術を「創った」結果です。では、そのシステムがあれば、スムーズに作用し、人々は安心するのでしょうか?人が感じる安心というのは、その人自身の判断に委ねられるものです。エンジニアの技術だけでは、安心を生み出すことはできません。そこに必要なのは、人間社会で生かしていく知識なのです。「知る」「創る」「生きる」。本プロジェクトでは、3つの視点を明確に捉え、安心安全の社会の構築に貢献する人材を養成していきます。

 具体的には、地球惑星科や環境科学をはじめとする自然科学、土木工学、都市・建築学、機械工学などの工学、哲学・心理学・倫理関連分野を中心とした3つの学術コアとその複合領域において、人間を起点とした科学と技術を統合した文理融合型の教育を推進していきます。専門分野のコアを持った上で、他分野の履修ができることは、リーディングプログラム独自の特徴といえるでしょう。カリキュラムでは、文系の学生も理系の分野を無理なく習得できるように用意しています。

災害科学国際研究所を中心とした教育体制

 災害科学国際研究所においては、津波防災、津波工学、火山噴火防災、噴火予知、地震観測、地震予知、活断層、異常気象、防災建築などの世界最先端研究が行われています。これらに携わる担当者とともに、防災に関係した講義やセミナーや自然災害に関連したフィールド研修などを共同開講し、学生が「自然災害」や「防災」に対して深い知識や経験を有する機会を創出します。通常のカリキュラムでは機械工学や社会学を専攻する学生が「自然災害」や「防災科学」の経験を得る機会はほとんどありませんが、本プログラムではそれが初めて可能となります。
 東日本大震災を機に、安全安心な社会をつくるのは、東北大学の使命でもあります。復興に貢献するグローバルなリーダーの人材を輩出することが、将来の地域貢献につながると考えています。
 本プログラムでは、「アカデミアに限らず、さまざまな企業、国際機関などにも興味がある」「異分野の知識も学びたい」「多様な学生との交流をしてみたい」といった学生を求めています。安全安心な社会構築に応える、グローバルに活躍するリーダーをぜひ目指してください。